「活性酸素」という言葉を聞いたことはありますか?なんとなく危険なイメージを持たれるかもしれません。化学的には、酸素分子(O?)に電子(e-)を付け足したものが活性酸素です。この活性酸素は、体内のさまざまな物質と反応しやすく、細胞の働きに必要なタンパク質や脂質、遺伝情報をもつDNAなどを酸化させてしまうことがあります。これが「体がさびる」と表現される現象です。活性酸素は、こうした酸化によって細胞の機能を損なう可能性があるため、しばしば“敵”とみなされます。しかし、本当にそうでしょうか?実は、意外な一面があるのです。
NADPHオキシダーゼは白血球に存在し、病原体を殺菌するためにスーパーオキシドを作り出します(細胞外のO2にe-を与える)。この酵素は複数のタンパク質から構成されており、どれかが欠けると働けなくなります。タンパク質は遺伝子を設計図として作られますが、遺伝子に異常があると構成タンパク質がうまく作られず、NADPHオキシダーゼがはたらけず、病原体を殺菌できなくなります。その結果、幼い頃から重い感染症を繰り返す「慢性肉芽腫症」という病気を発症します。白血球は存在していても、活性酸素を作れないことで免疫機能が十分に働かなくなるのです。病気の背景には、こうした分子レベルの仕組みが関わっています。
慢性肉芽腫症の原因は、遺伝子変異にともなうNADPHオキシダーゼのタンパク質の異常です。医大の学部生も参加してくれている私たちの研究チームは、構成タンパク質の特定のアミノ酸が他のアミノ酸に入れ換わった(点変異にもとづくアミノ酸置換)ことによって、(1)NADPHオキシダーゼ複合体の形成に必要なタンパク質同士の結びつきがうまくいかなくなる、(2)あるいはアミノ酸置換により構成タンパク質が極めて不安定になり細胞内で急速に分解されてしまうこと、などによりスーパーオキシドが生成されず慢性肉芽腫症を引き起こしていることを発見してきました。現在、研究チームでは、タンパク質どうしの結びつきや分解のしくみを明らかにすることで、慢性肉芽腫症の治療薬につながる“ターゲット”を探しています。これらのしくみを解き明かすことで、病気の原因に直接働きかける新しい治療法の糸口を見つけようと、日々研究に取り組んでいます。
