研究?産学連携Research and Industry-Academia Collaboration

2025/11/04慢性肉芽腫症の創薬ターゲットの探索

  • 宮野 佳
  • Kei Miyano
  • 自然科学講師

<略歴>

1999年3月    愛媛大学工学部応用化学科卒業

2001年3月    愛媛大学大学院理工学研究科(応用化学専攻(修士))修了

2004年3月    愛媛大学大学院理工学研究科(環境科学専攻(博士))修了学位

                             博士(工学)

2004年4月    九州大学大学院医学研究院 博士研究員, 特任助教, 助教

2019年3月    betway必威体育(生化学)助教

2023年4月    betway必威体育(自然科学)講師 現職

 

<主要研究領域>

酸化ストレス、レドックスバイオロジー

活性酸素、人体にとって敵なのか

 「活性酸素」という言葉を聞いたことはありますか?なんとなく危険なイメージを持たれるかもしれません。化学的には、酸素分子(O?)に電子(e-)を付け足したものが活性酸素です。この活性酸素は、体内のさまざまな物質と反応しやすく、細胞の働きに必要なタンパク質や脂質、遺伝情報をもつDNAなどを酸化させてしまうことがあります。これが「体がさびる」と表現される現象です。活性酸素は、こうした酸化によって細胞の機能を損なう可能性があるため、しばしば“敵”とみなされます。しかし、本当にそうでしょうか?実は、意外な一面があるのです。

実は味方の活性酸素
 活性酸素は危険な物質と思われがちですが、実は私たちの体が意図的に作り出しているものでもあります。その理由は、病原体を殺菌するためです。空気中には目に見えない病原性微生物が多く含まれており、私たちは常に感染のリスクにさらされています。そんな中、免疫機能が働いて健康を守ってくれています。特に血液中の白血球は、病原体を見つけて包み込み、内部で殺菌します。その際に使われるのが活性酸素です。たとえば、ノロウイルスにはアルコール消毒が効かず、代わりに使われる漂白剤の主成分「次亜塩素酸」も活性酸素の一種です。白血球は、過酸化水素や次亜塩素酸などの前駆体(もととなる物質)として「スーパーオキシド」を最初に作り出します。このスーパーオキシドは、白血球に存在する酵素「NADPHオキシダーゼ」によって生成物として意図的に作られているのです。
NADPHオキシダーゼの役割

 NADPHオキシダーゼは白血球に存在し、病原体を殺菌するためにスーパーオキシドを作り出します(細胞外のO2にe-を与える)。この酵素は複数のタンパク質から構成されており、どれかが欠けると働けなくなります。タンパク質は遺伝子を設計図として作られますが、遺伝子に異常があると構成タンパク質がうまく作られず、NADPHオキシダーゼがはたらけず、病原体を殺菌できなくなります。その結果、幼い頃から重い感染症を繰り返す「慢性肉芽腫症」という病気を発症します。白血球は存在していても、活性酸素を作れないことで免疫機能が十分に働かなくなるのです。病気の背景には、こうした分子レベルの仕組みが関わっています。

創薬ターゲットとしてのNADPHオキシダーゼの活性化の仕組み

 慢性肉芽腫症の原因は、遺伝子変異にともなうNADPHオキシダーゼのタンパク質の異常です。医大の学部生も参加してくれている私たちの研究チームは、構成タンパク質の特定のアミノ酸が他のアミノ酸に入れ換わった(点変異にもとづくアミノ酸置換)ことによって、(1)NADPHオキシダーゼ複合体の形成に必要なタンパク質同士の結びつきがうまくいかなくなる、(2)あるいはアミノ酸置換により構成タンパク質が極めて不安定になり細胞内で急速に分解されてしまうこと、などによりスーパーオキシドが生成されず慢性肉芽腫症を引き起こしていることを発見してきました。現在、研究チームでは、タンパク質どうしの結びつきや分解のしくみを明らかにすることで、慢性肉芽腫症の治療薬につながる“ターゲット”を探しています。これらのしくみを解き明かすことで、病気の原因に直接働きかける新しい治療法の糸口を見つけようと、日々研究に取り組んでいます。